2017年9月17日日曜日

孫子の兵法 軍形編その3

3、勝ち安きに勝つ。

孫子曰く。「誰にでもそれと分かる勝ち方は最善では無い。世間でもてはやされる勝ち方も最善では無い。例えば、髪の毛1本を持ち上げて誰が褒めようか?太陽や月が見えるからと言って、誰がもてはやすか?雷鳴が聞こえると言って、有難がられるか?しかし、最善とはそのような勝ち方の中にあるのである。誰にとっても当たり前のごとく、無理なく自然に勝てるが戦上手と知れ。故に人目につかず、その智謀や勇猛さが目立つ事はないのである。」

野球の解説者が、TVなどでファインプレーが多い選手は上手いとは言えないと言う事がある。それはファインプレーになってしまった事自体、守る場所を間違えている証拠でもあるからだ。野球の守備は相手のバッターの打つ場所をしっかり想定し、ピッチャーの投げる球に合わせ自分の守備位置を変えていくもの。それなのにファインプレーになってしまったのは、自分の読みを打者に外されたのだから褒められた話ではない。本当の名選手と言うのは、いる場所に打球が飛んできて、あたかもキャッチボールのように打球を処理できる人を言うのだ。

孫子はこの事を言っている。目の前に来たボールをキャッチし、例えばファーストに投げてアウトにする。小学生でもできるこの行為では、あまりにも普通で誰も驚かない。しかし、現実にそうするには入念な準備が必要だ。野球の例で言えば、打者だって守備がいる場所に打ちたいわけでは無い。プロの打者ともなれば、守備の狙いを外すつもりで打つだろう。それなのに、守備のいる所に打球が飛んでしまうのだ。余りに平凡のため誰も気づかないが、実際は驚くべき事なのである。

このように無理なく自然にと言う言葉に、相手がそう分かっていてもと言う部分が含まれている。「分かっていても、そうせざる得ないでしょう?」と、相手に問いかけるという事でもあるのだ。深い洞察があってこそ、無理なく自然になる事を知っておきたい。これが勝負は勝負をする前に終わっていると言われる所以である。

では最後に、何故人目については最善と言えないのかに触れておこう。結論から言えば、能ある鷹は爪を隠すという事だ。何故鷹が爪を隠すかと言えば、爪を出しては狙っている事が見え見えで、獲物が逃げてしまうからである。これを人間に当てはめて見よう。自分がどんな人間で、どんな作戦を好むという事を相手に知れてしまえば、相手は警戒し対応策を練る事だろう。それでは勝てないとまでは言わないまでも、わざわざ教えてやる必要もない。戦争は詭道なのだ。

孫子の兵法の大切なキーワードは、戦争のコスト管理である。そう考えれば、もっとも損害がない勝ちを得るためには、相手には情報を与えぬ方が良い。不意を突く事が大事なのは先述した通りである。こう考えて見ると、「勝ち安きに勝つ」は、真に孫子らしい教えでは無いだろうか?良い仕事は轍すら残さないと知ろう。轍が残っては爪を隠せないからである。






仕事でも、当たり前の事を当たり前にこなす事が最も大切だ。たまに大きな仕事ばかり目指す人がいるが、実際の仕事は瑣事が9割である。仕事の信用とは、基本的に瑣事をどれだけ安定してこなせるかにあるのだ。当たり前の事ばかりするので目立たないが、実際にいなくなると困る。そういう人間こそ得難い人材であり、最も欲しい人材となるのである。

得難い人材になるにはどうしたら良いか悩む人もいるだろうが、その答えは明快だ。目の前の事をしっかりこなしさえすれば良い。ただし、誰よりも上手くを忘れずに。得難い人材になるのに、特別なスキルなどは必要ない。瑣事を誰よりも上手くこなせる人間こそが出世するのである。会社は瑣事で回っているのだから。自分を見直すキッカケになれば幸いだ。

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