5、利をもって動かし、卒をもって待つ。
身近なところで、釣りを想像すると良いかも知れない。釣りの名人ともなれば、ルアーがルアーでなくなり、魚から見れば本物の餌に化ける。しかし、そこには釣り針がしこんであるわけだ。つまり、利をもって魚の目を欺き、食いついた処を釣り上げるのが釣りとなる。これが孫子の言う「利をもって動かし、卒をもって待つ」のイメージだ。では、以下説明に入る。
孫子曰く。「乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず。乱を治むるは数なり。勇怯は勢いの如何であり、強弱は態勢による。故によく敵を動かす者は、これに形すれば、敵は必ずこれに従い、何かを予えれば、敵必ずこれを取る。利をもって敵を動かし、卒をもって敵を待つ。」
【解説】
乱は治の中に生じ、一度乱戦になってしまえば勝敗は単純な数の勝負となってしまう。混戦・乱戦では、いくら将が有能でも指揮はとりづらいのだから、そういう状態になる事だけは避けるべきだろう。将たる者も乱戦・混戦になっては力が発揮できない。だから、そうならぬよう、又はなっても立て直せるよう、しっかり軍を統率できるようしておくことだ。
怯は勇から生じ、それは勢いの有無で決まる。どれほど勇猛な人間でも、味方が逃げているような状況で逃げずにいられるだろうか?戦う気持は折れ、犬死にを避けるために逃げる他ない。逆に、どんなに臆病な者でも、相手が逃げている姿を見れば勇ましく戦えるものである。勝ち戦なら、手柄を立て報奨に預かりたいという欲目がでるのだから。そのため、将たる者は勢いで勝敗が決する事を肝に銘じなければならない。
弱は強から生じ、それは態勢の如何による。精強な軍と呼ぶには、当然の事ながら将軍の命令を下が周知徹底する必要がある。例えば、将軍が進軍を命令しているのに、軍が動かないなら軍が軍として機能しない。仮に将軍が殺され、指揮命令系統が混乱する事態になった事を想像して欲しい。精強な軍もまとまりを欠き、ただの烏合の衆になり下がるはずだ。軍が強足りえるのは、しっかり態勢が維持されている故なのである。一度、態勢にほころびが出れば、軍は弱となり得るのだ。そのため、将たる者は態勢の状態に気を使わねばならない。
故に、用兵に長けた者は、自軍が最も力が発揮できる状態を作り出すために、敵を罠に誘うのだ。優れた将ともなれば敵を思うがままに操り、利をもって敵の目を欺く。そして、万全の態勢で敵を討つのである。
仕事でも、利によって誘い出されて、手痛い損害を出す例はたくさんある。例えば、株式投資である。ある日、会社に証券マンが訪ねて来て、社長に株式投資のお誘いの話をする。株式投資も一般的になった今はさておき、まだバブルで日本が騒いでいたころなどは、有名企業の社長でも警戒感なく話を乗ってしまう事があった。
社長が「みんな、いくらくらいでやってるの?」なんて聞こうものなら、証券マンが「社長さんクラスの会社なら、まずは一億くらいが相場です。この株など如何でしょう?」などと言い、社長も警戒感が無い物だから、試しにやって見ようかと話に乗ってしまったものだ。
しばらくすると、証券マンがまたやってきて、社長に言う。「この前の株なんですが、実は2倍になりました。売りませんか?」と。そうすると、社長は驚いてしまう。会社を営業して1億稼ごうと思ったら大変なのに、株と来たら預けてるだけで1億円儲かってしまったじゃないか。
こうなると社長の欲望に火がつくものである。今度は自分から証券会社に行き、「実は自分2回目なんですけど・・・。」と言ったりする。応対した証券マンも、「2回目なら、もう常連も同じですよ。ささ、此方へ。」と調子のよい事を言うのである。証券マンが「今回は何を買われるんでしょう?」と聞けば、社長は答える。「お薦めは無いか?資金は2億だ。」と。証券マンが「こちらは如何ですか?」と言うものなら、社長はそれを買おうとお金を置いていくのだ。
また、しばらくすると、証券マンが社長の元に訪れるのである。そして、「社長この前の株なんですが、実は4億になってます。売りませんか?」と言う。こうなると、たいていの社長は参ってしまう。そして思うのだ。これからは株だと。自分で一生懸命働いて稼ぐより、株式に投資したほうが楽でしかも儲かるでは無いか。こんな凄いお金の稼ぎ方があったとはと。
だが、良い話には裏があるものである。社長さんは喜ぶあまり気づかないのだが、プロ筋は虎視眈々と社長さんからお金を奪う機会を待っているもの。連戦連勝中の社長さんは必ず3回目も投資してしまう。しかも、今度は株はもう分かったとばかりに、10億で勝負しようと言い出す。これで終わりである。プロ筋はその瞬間を見逃さず、売りぬいて社長さんは大損してしまうのだ。
当たり前の話だが、1億がすぐ2億になって、2億がすぐ4億になるような話を人に教えるはずが無い。そのあり得ない事が起きたという事は、孫子に言わせれば、利によって動かされているから注意せよとなる。冷静になれば分かるのだが、難なく数億を稼いでしまった者は聞く耳すら持たないもの。そして、最後は万全の態勢をもったプロ筋(=卒)によって討たれるのだ。
松下幸之助は「経営と人生は博打では無い。」と言ったが、その言葉からは利に警戒せよという孫子の兵法が見え隠れしている。しっかりと胸に刻みたい。
身近なところで、釣りを想像すると良いかも知れない。釣りの名人ともなれば、ルアーがルアーでなくなり、魚から見れば本物の餌に化ける。しかし、そこには釣り針がしこんであるわけだ。つまり、利をもって魚の目を欺き、食いついた処を釣り上げるのが釣りとなる。これが孫子の言う「利をもって動かし、卒をもって待つ」のイメージだ。では、以下説明に入る。
孫子曰く。「乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず。乱を治むるは数なり。勇怯は勢いの如何であり、強弱は態勢による。故によく敵を動かす者は、これに形すれば、敵は必ずこれに従い、何かを予えれば、敵必ずこれを取る。利をもって敵を動かし、卒をもって敵を待つ。」
【解説】
乱は治の中に生じ、一度乱戦になってしまえば勝敗は単純な数の勝負となってしまう。混戦・乱戦では、いくら将が有能でも指揮はとりづらいのだから、そういう状態になる事だけは避けるべきだろう。将たる者も乱戦・混戦になっては力が発揮できない。だから、そうならぬよう、又はなっても立て直せるよう、しっかり軍を統率できるようしておくことだ。
怯は勇から生じ、それは勢いの有無で決まる。どれほど勇猛な人間でも、味方が逃げているような状況で逃げずにいられるだろうか?戦う気持は折れ、犬死にを避けるために逃げる他ない。逆に、どんなに臆病な者でも、相手が逃げている姿を見れば勇ましく戦えるものである。勝ち戦なら、手柄を立て報奨に預かりたいという欲目がでるのだから。そのため、将たる者は勢いで勝敗が決する事を肝に銘じなければならない。
弱は強から生じ、それは態勢の如何による。精強な軍と呼ぶには、当然の事ながら将軍の命令を下が周知徹底する必要がある。例えば、将軍が進軍を命令しているのに、軍が動かないなら軍が軍として機能しない。仮に将軍が殺され、指揮命令系統が混乱する事態になった事を想像して欲しい。精強な軍もまとまりを欠き、ただの烏合の衆になり下がるはずだ。軍が強足りえるのは、しっかり態勢が維持されている故なのである。一度、態勢にほころびが出れば、軍は弱となり得るのだ。そのため、将たる者は態勢の状態に気を使わねばならない。
故に、用兵に長けた者は、自軍が最も力が発揮できる状態を作り出すために、敵を罠に誘うのだ。優れた将ともなれば敵を思うがままに操り、利をもって敵の目を欺く。そして、万全の態勢で敵を討つのである。
仕事でも、利によって誘い出されて、手痛い損害を出す例はたくさんある。例えば、株式投資である。ある日、会社に証券マンが訪ねて来て、社長に株式投資のお誘いの話をする。株式投資も一般的になった今はさておき、まだバブルで日本が騒いでいたころなどは、有名企業の社長でも警戒感なく話を乗ってしまう事があった。
社長が「みんな、いくらくらいでやってるの?」なんて聞こうものなら、証券マンが「社長さんクラスの会社なら、まずは一億くらいが相場です。この株など如何でしょう?」などと言い、社長も警戒感が無い物だから、試しにやって見ようかと話に乗ってしまったものだ。
しばらくすると、証券マンがまたやってきて、社長に言う。「この前の株なんですが、実は2倍になりました。売りませんか?」と。そうすると、社長は驚いてしまう。会社を営業して1億稼ごうと思ったら大変なのに、株と来たら預けてるだけで1億円儲かってしまったじゃないか。
こうなると社長の欲望に火がつくものである。今度は自分から証券会社に行き、「実は自分2回目なんですけど・・・。」と言ったりする。応対した証券マンも、「2回目なら、もう常連も同じですよ。ささ、此方へ。」と調子のよい事を言うのである。証券マンが「今回は何を買われるんでしょう?」と聞けば、社長は答える。「お薦めは無いか?資金は2億だ。」と。証券マンが「こちらは如何ですか?」と言うものなら、社長はそれを買おうとお金を置いていくのだ。
また、しばらくすると、証券マンが社長の元に訪れるのである。そして、「社長この前の株なんですが、実は4億になってます。売りませんか?」と言う。こうなると、たいていの社長は参ってしまう。そして思うのだ。これからは株だと。自分で一生懸命働いて稼ぐより、株式に投資したほうが楽でしかも儲かるでは無いか。こんな凄いお金の稼ぎ方があったとはと。
だが、良い話には裏があるものである。社長さんは喜ぶあまり気づかないのだが、プロ筋は虎視眈々と社長さんからお金を奪う機会を待っているもの。連戦連勝中の社長さんは必ず3回目も投資してしまう。しかも、今度は株はもう分かったとばかりに、10億で勝負しようと言い出す。これで終わりである。プロ筋はその瞬間を見逃さず、売りぬいて社長さんは大損してしまうのだ。
当たり前の話だが、1億がすぐ2億になって、2億がすぐ4億になるような話を人に教えるはずが無い。そのあり得ない事が起きたという事は、孫子に言わせれば、利によって動かされているから注意せよとなる。冷静になれば分かるのだが、難なく数億を稼いでしまった者は聞く耳すら持たないもの。そして、最後は万全の態勢をもったプロ筋(=卒)によって討たれるのだ。
松下幸之助は「経営と人生は博打では無い。」と言ったが、その言葉からは利に警戒せよという孫子の兵法が見え隠れしている。しっかりと胸に刻みたい。
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