2017年11月27日月曜日

孫子の兵法 用間編その6

4、反間は厚くせざるべからず

孫子曰く。「およそ軍の撃たんと欲する所、城の攻めんと欲する所、人の殺さんと欲する所は、必ず先ずその守将、左右、謁者、門者、舎人の姓名を知り、吾が間をして必ずこれを索知せしむ。

必ず敵人の間の来たりて我を間する者を索め、因りてこれを利し、導きてこれを舎す。故に反間、得て用うべきなり。これに因りてこれを知る。故に郷間、内間、得て使うべきなり。これに因りてこれを知る。故に死間、誑事をなして敵に告げしむべし。これに因りてこれを知る。故に生間、期の如くならしむべし。五間の事、主必ずこれを知る。これを知るは必ず反間にあり。故に反間は厚くせざるべからざるなり。」



【解説】

孫子曰く。「およそ敵軍を攻撃する場合、城を攻める場合、敵将(人)を殺す場合は、必ず先ずはその守将、左右の側近、取り次ぎ役(謁者)、門番、従者(舎人)の姓名を知り、間者を通じ必ずその動静を把握しなければならない(索知)。

必ず敵の間者は来るのだから、その間者を探し出し(索)、厚く遇してやると良い(利)。情報を与えるふりをしながら教えを施し(導)、良き家(舎)をあてがい味方に引き入れるのだ。こうして反間が得られれば、此方の間者として用いる事ができるようになる。反間を通じ、敵国の内情も知れるだろう。

そして、反間を通じて内通者を得られ、その内通者は郷間や内間として使える。死間に偽情報(誑事)を告げさせるにしても、敵情を知ればこそ敵が信じやすい情報を作れるのだ。生間も敵国の内情を知らずには勝手が分からない。生間が国境をこえて予定の期日どおりに往来できるのは、敵の内情を知ればこそである。五種類の間者の事を君主は必ず知らねばならないが、これを知る要は必ず反間となる。反間は特に厚遇しなければならない。」






受験勉強を思い出して欲しい。大学にはいるために過去問をやらなかっただろうか?大学時代は試験前、みんなで過去問を回し合わなかっただろうか?自分はコンビニにいき一生懸命コピーしたのを覚えている。いい思い出だ。

実は孫子が言っている事も、要はテストの過去問と発想は同じである。敵を攻撃する時に敵を知らなかったら、思わぬ伏兵がいて予定が狂ったらどうなるか?テストに落ちる所の騒ぎではなく、負けて命を落とすやも知れないのだ。城を下調べもせずに攻め、城の防備が予想をはるかに超えていたらどうするか?兵を動員した費用を考えれば、攻めるのを思いとどまっても大損害である。敵将を殺そうにも、敵将の動きを把握しなければ逃げられ未遂に終わる事だろう。

過去問を知っているかどうかは、合格率に影響しやすい。テストを作る先生の好みが傾向として現れるからだ。それと同じように、何をするにも、まず敵方の傾向と対策をしっかり練った後に攻めなさいと孫子は言っている。それを具体的に言うと、「守将、左右、謁者、門者、舎人の姓名を知り索知せしむ」、つまり関係者全員の氏名をリストアップし、それぞれ趣味や性格に至るまで動向を把握しておく事という訳だ。

これは世界では当たり前に行われている話で、アメリカの日本大使館も日本で発行されている本などを要約して、日本ではどんな話題が興味を持たれているかを国務省に報告する仕事があると言われるし、孫子の国である中国は日本の学界のリストさえ網羅しどの研究者がどういう意見かさえも把握しているとか、映画で有名なイギリス諜報部は漫画では貴方のはいているパンツの色さえ知っていると紹介されたりする。本当だと確証は得られないが、遠からずでは無いだろうか?




その1、スパイの要は反間にあり

個人的には感心したのが、孫子がスパイの要は反間と考えている事だ。反間は今の言葉で言えば2重スパイであるから、2重スパイ自体は発想として難しいものでは無い。だが、2重スパイを得る事が、他の間者に派生していくというのだから聞いてみるものである。

反間は郷間や内間につながり、時には死間として利用でき、生間にとって有効な情報を提供すると孫子は言う。だから、国としてすべき事は先ずは反間を得る事となる。得られれば、他の種類の間者も自然と得て使う事ができるからだ。では、どうしたら反間を得られるだろうか?

まず最初のプロセスは、反間となる可能性のある敵のスパイを探す事となる。此方が敵の情報を調べあげ万全を期すように、敵も此方の情報を調べるために間者を送り込むだろう。それを徹底的に探すのである。今の日本で言えば、例えばジャーナリストには工作員が多いと言われている。ならば、ジャーナリストの言動や動きを公安当局なりに張り付かせればはっきりするだろう。この時、嘘を言ってくれれば分かりやすいが、嘘は言わないが大事な事を隠す人が危ないなんて言われたりする。ともかく、国をあげてやるならば、間者の判別くらいはつけられよう。

そしてスパイが見つかったならば、そのスパイを処分するのも一つの手だが、最も良いのは反間として利用する事だ。敵のスパイに良い家をあてがい、金を与え、情報を与えながら徐々に此方に引き込んでいく。兵は利によって動くの鉄則通り、利によって味方に引き入れるのである。そのスパイに気づかれている自覚があるかは時々だが、こうして反間を得られる。

反間は国に帰えれば、家族や親族、同郷の人を頼るだろう。敵の役人とも通じている。こうして郷間や内間を得るとっかかりを掴めるのである。あとはお金を融通するかの勝負となろう。そして、反間は敵方のスパイでもある事実は、敵方の信頼を意味しよう。その信頼を逆手にとれば、偽情報を信じ込ませやすく時には死間として大きな役割を果たせる。また、生間が敵国に侵入するにも、まずは敵国の状況をある程度知ったほうが良い。敵国はどういう地形で、時間はどれくらいかかるとか、スパイに対する警戒はどのようにされているとか、最低限これくらいは知らない怖くて仕事もしづらい。反間から得た敵国の情報が、生間に動きやすさを与えるのだ。生間が予定どおり往来できるならば、反間からもたらされる情報による部分が大きい。反間は生間の活動に寄与するのである。




その2、反間を特に厚遇すべし

君主は様々なスパイを使いこなさねばならないが、その中で最も大切なのは反間である。反間はスパイの要のような存在であるから、その待遇も最も厚く報いねばならないと孫子は言っている。

孫子の兵法を学んでみて思うのが、世界は反間によって動いているという事だ。いかなる国であれスパイによる情報を欲していて、そのためには反間の働きが欠かせない。国的には泳がせるという認識にもなろうが、反間とうまくやれねば国は立ちいかない。色々な国の情報が通過する反間は、情報を操作しやすいポジションであるのも事実で、反間を制する者が世界を制するのかも知れない。国が反間を用いようとする故に、反間によって国が動かされる。そう考えて見ると、新しい視点で世界を見れるような気がしないか?



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