2017年11月18日土曜日

孫子の兵法 火攻編

1、火攻めのねらい

孫子曰く。「およそ火攻に五あり。一に曰く、人を火く、二に曰く積を火く、三に曰く、輜を火く、四に曰く、庫を火く、五に曰く、隊を火く。火を行なうには必ず因あり。煙火は必ず素より具う。火を発するに時あり、火を起こすに日あり。時とは天の燥けるなり。日とは月の箕、壁、翼、軫に在るなり。およそこの四宿は風起こるの日なり。」



【解説】

孫子曰く。「およそ火攻めの目的は5種類ある。一に人民を焼く事。二に物資や食料などの積み荷を焼く事。三に輸送部隊(輜)を焼く事。四に倉庫を焼く事。五に頓営を焼くなど隊を攻撃する事だ。

火攻めを行うには、必ず事前の準備(因)が必要となる。発火装置(煙火)は必ず予め備えなくてはならない(素具)。火をはなつ(発)には適した時期があり、火攻め(火起)に適した日がある。時期は乾燥した時期が良い(天燥)。日は月が箕、壁、翼、軫に在る時だ。およそこの星座に月がかかる時は(四宿)、風が起きる日となる。」






火攻めと言って誰でも思い浮かぶのは、城や宿舎を焼く事だろう。城を焼けば、城下町にいる人民は勿論焼け死ぬし、宿舎を焼けば保管されていた食料などの積み荷や、財宝や財貨、駐屯する部隊にそれぞれダメージがあるはず。当然のように輸送車両も燃えるし、武器も燃える。そして、そこは倉庫としても使えなくなる。

これはTVドラマや、歴史小説を見ればお馴染み話だが、実際に火攻めをやる側にたって考えて見れば、火攻めをする目的も当然敵が受けるダメージの部分になる。孫子が火攻めの目的を5つあげているが、目的から見るより、火攻めを想像してみるほうが得心がいくだろう。考えて見れば、当たり前の話をしているだけだ。

加えるなら、最近はトランプ大統領や、金正恩でお馴染みとなったマッドマン・セオリーにも一役買う。例えば、織田信長は比叡山焼き討ちが有名だが、坊主をも殺すのでは何をされるか分からないとなれば、その名前を聞いただけで逃げたくもなる。これは戦国武将としては、相手の降伏を引き出す大きなメリットともなる。むごい事もできないのでは、相手に舐められ粘れると思われてしまい、戦争が長引いて被害が増すばかりだ。むごい事をするからこそ取引における譲歩が活き、戦争は早く終結する面も知らねばならない。火攻めはマッドマンの演出になるのである。

さて、では実際に火攻めをすると考えて見よう。どうしたら良いだろうか?敵だって防御はしているわけだから、単に宿舎に出向いて行って火をつけては見つかってしまう。敵の防備を掻い潜るには、敵に内応者が必要になるかも知れないし、スパイによる入念な現地調査が必要かも知れない。実際、歴史上の大戦果をあげる補給基地攻撃は、敵方の補給基地の役人が待遇への不満から情報提供者になっていたりする。

そして、火攻め出来るとしたら、次は当然どう火をつけるかという問題がでてくる。例えば、火矢なのか、薪を現地までもっていって油をかけて火をつけるのか、現地の状況によって用意するものも変わってくるだろう。こういった諸々を考えて、孫子は火攻めには事前の準備が必要だし、発火装置も予め用意しておかねばならないと説いているのである。

そして、火攻めは名前の通り火を利用した攻撃だから、天候の状態によって大きな影響をうける。例えば、雨の日に火をつけられるだろうか?このように火攻めを最大限有効にするためには、天候も考えねばらならない。そこで孫子があげているのは、以下2つとなる。



その1、乾燥する時期を選ぶ。

日本で言えば、梅雨時から夏と秋から冬では燃え方が全然違う。自分の感覚では火の勢いが2倍から3倍は違う。戦争は相手あっての事なため、乾燥する時期に戦争できるかは分からないが、乾燥した時期の火攻めはより強力な攻めとなる事は間違いない。恐らく消せなくなってしまうだろう。



その2、風を読む。

たき火をすると良く分かるのだが、火はちょっとした風にも横になびく。強風ともなれば、地面を這うように火が横に行くなびくのだから、たき火は風のない日に限る。ただ、逆に言えば火攻めは強風の日に限るわけだ。火が地面を這うよう横に流れるのを火攻めに利用しない手はない。孫子が言うには、風が起きる日はだいたい決まっていて、星座と月の位置関係で風が読めるそうだ。月が箕、壁、翼、軫にかかると次の日は風が起きると言うのだから恐ろしいものだ。箕、壁、翼、軫は中国の星座名となる。(二十八宿と言う。)



仕事で考えて見よう。火攻めを成功させる秘訣は、言わばインエリジェンスにあり、火攻めをする前の情報管理こそが勝敗の決め手となっている。単に火をつけにいって成功するはずがない。火をつけられるように敵の隙を窺うからこそ、火攻めという大技が成功するのである。火攻めの見た目の派手さに目を取られるのではなく、事前準備に目をやると見え方が変わるだろう。火攻めが威力よりも、火攻めを成功するべく成功させた準備こそが立派なのである。

仕事も同じで、準備8割と思って仕事に臨むと良い。いい仕事は下準備が決める。スーパープレーに目をやるのではなく、当たり前のことを当たり前にこなす凄さに気が付く事が孫子の兵法である。という訳で、今回は何が仕事の下準備なのかという話を紹介しよう。

思うに、仕事で最も大切な準備はプラス思考である。プラス思考ほど貴方を助けるものは無いだろう。究極のプラス思考を前にしたら、悪い事なんて起きようが無い。良い事しか起きない人生を送れるはずだ。こう言うと、そんなうまく行かないというかも知れない。確かにそうかも知れない。凹むのも人間味というものだ。

ただ、身に着けられるとしたらどうだろう?いきなりプラス思考のみの人間になるのは難しくても、人間はトレーニング次第でそなれるとしたらどうだろう?やってみる価値があると思わないか?

具体的な例を紹介しよう。例えば、笑ってみて欲しい。嘘の笑いで良いから、しばらく嘘笑いをして欲しい。楽しくなって来ないか?陽気にならないか?これが人間である。人間は楽しいから笑う動物と言うより、笑っていると楽しくなる動物なのである。だから、故・中村天風翁は言う。悲しい時は、努めて笑いなさい。そうすれば、悲しみのほうから逃げていくと。笑いは数多く動物がいるなかで、人間だけに与えられた特権だと言う。その特権を使わないのは、勿体ない。

例えば、暑い時は体はだれるかも知れない。だが、心までだれてはいけない。暑いからこそ余計に元気が出てきたと言う人間が良い。失敗した時、普通の人は凹むかもしれない。だからこそ、今日はこれを学ぶ機会を得たのかと言う人間が良い。そう言えるようになるポイントは笑ってしまう事。笑って心が陽気に傾けば、自然とそういう言葉も言えるようになる。ちょっとしたテクニックだが、覚えておくと役に立つ事もあるだろう。




---- 以下、余談 ----

織田信長の比叡山焼き討ちは無かったという説も有力の様子。焼き討ちすれば大量にでるはずの白骨が出てなかったり、当時の比叡山のボスは天皇の弟君であったので、比叡山焼き討ちをすると朝敵として四方八方から攻撃されかねない。でも、されていないのだからという訳だ。最近は織田信長も働き者で努力家だったと評価が見直される向きもあるが、葬式で親父の死体に灰をぶっかけるなど異常といわれる行動も、今で言えばマッドマンセオリーを考えての事だったのかも知れない。

何をするか分からないと思えばこそ相手は怖がるし、うつけと思われるからこそ油断を引き出せる。孫子の兵法に適った行動にも見える。

0 件のコメント:

コメントを投稿