2017年11月23日木曜日

孫子の兵法 用間編

1、敵の情を知らざる者は不仁の至りなり

孫子曰く。「およそ師を興すこと十万、出征すること千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費し、内外騒動し、道路に怠り、事を操り得ざる者七十万家。相守ること数年、以って一日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛みて敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。人の将にあらざるなり。主の佐にあらざるなり。勝の主にあらざるなり。

故に明君賢将の動きて人に勝ち、成功、衆に出ずる所以のものは、先知なり。先知は、鬼神に取るべからず。事に象るべからず、度に験すべからず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。」



【解説】

孫子曰く。「およそ10万もの軍(師)を率いて(興)、千里のかなたまで出征するならば、百姓の出費や、公家の負担(奉)は一日千金を費やすほどになる。国内外が騒動となり、駆り出された人民は往来に疲れ道路にへたり込み(怠)、本業(事)に専念(操)できない者は70万家にのぼる。

戦争とは互(相)いに数年守りあい、勝敗が決する一日を争うものである。にもかかわらず(而)爵位と俸禄の百金を惜しみ、敵の内情を知ろうとしない者は、思いやりに欠けていると言わざる得ない(不仁)。およそ人の将たる器ではなく、君主の助(佐)けにならず、勝利も得られまい。

聡明な君主や賢明な将軍が動けば人に勝ち、はなばなしい(衆出)成功を収めるのは、敵の内情を先に知るからである。先に知ると言っても、鬼神のお告げ、占い(象事)、天体の動き(験度)から知るわけではない。必ず人を通じて敵の内情を知るのだ。」






結論を一言で言えば、スパイは大切という話だ。何故、スパイを使わねばならないのかを、懇切丁寧に孫子が説いている。孫子が言うには、戦争は大変金がかかるものだそうだ。10万もの民衆を集め、千里の彼方まで遠征すれば、一日千金と言う大量の金を消耗する。農民が兵に駆り出されれば、誰が田畑を耕すのだろう?歳入は減るに、歳出は膨大なのである。

そして兵が千里先へ遠征すれば、食料も千里先へ輸送する事になる。この負担も民衆に大きく降りかかる。長く伸びた補給路を警護するために民衆は駆り出され、道を何度も往来する内に疲労感に苛まれる。兵として戦わない者達までも地べたに座って休むようになり、70万もの家が本業に専念出来なくなるのだ。戦争とはかくも負担を強いるものなのだ。

戦争は押したり引いたり数年の膠着状態が続くものだが、最後に勝敗が決するのはたった一日だ。言わばその一日のために、様々な準備をするのが戦争なのである。にもかかわらず爵位や金を出し惜しみ、敵の内情を探ろうとしないなら、勝つための準備をしたと言えるだろうか?いや、してないと孫子は言うのである。

負ければ全てを失う兵や民衆に対して、思いやりがないと言わざる得ない。およそ人の上に立つ器では無いし、君主の補佐たる将軍の役は担えない。敵の内情も知らずに戦い、兵を無暗に殺す者が勝てるわけがないからである。聡明な君主や、賢明な将は戦えば常に勝ち、華々しい成功を収めるが、それは情報戦で先んじるだ。他の者が神頼み、占い、天体の動きに頼る中、彼らだけはスパイからの情報収集を徹底していると孫子は言っている。



仕事で考えて見よう。仕事でも情報は大切だ。特に情報の鮮度が大切で、活きの良い情報をどれだけ手に入れられるかが勝負の分かれ目かも知れない。だから、情報の価値を知っている経営者ほど、良い情報があったら先ず俺のところに持ってきてくれと言うものだ。何時の時代も情報に通じた者が有利に事を運ぶのであろう。

情報が大切な事には異論はないと思うが、問題はどうやったら手に入るかだ。それは、一つは買う事である。無料で良い情報は落ちていないのだから、自分で金を出して買う意識を持たねば良い情報には巡り合えない。孫子が言うように、爵禄百金を惜しんでは立ち行かないのである。今は質の高いのに無料のネット情報も多いので、大抵の事は無料でも十分な情報をえられる時代になったが、人に先んじてるならやはり有料の情報源が必要である。まずは情報は買うものと意識を変えると良いだろう。

そして、有料の情報に接するうちに、自分もその水準でものを考えられるようになっていくだろう。どれくらいが無料の水準で、どれくらいが有料の水準なのか判別がつくようになり目が肥えるはずだ。そうなったら、次の段階に進める。貴方独自の人脈を作れるのだ。

人脈づくりのポイントは、自分が情報の中継点になる意識だ。みんなに自分から良い情報を教えてあげると良い。情報を集める内に自分には使えない情報でも、知り合いには良い情報だったりする事がでてくる。あの人は興味ありそうだと思ったら、迷わず教えて上げると良い。そうしている内に、自分にも良い情報がまわってくるようになるのである。これが情報の中継点というイメージとなる。

「まずは与えよ」とは良く言ったもので、活きた情報をくれる人脈を作りたかったら、自分から発信する意識が欠かせない。貴方が周りを喜ばせるから、周りも貴方を喜ばせるために情報を教えてくれるのである。なお、腐った情報を勿体ぶって教える人がいるが、腐った情報をもらって喜ぶ人はいない。腐った情報をあげても、人脈にならない事には触れて置く。教えるなら相手にとって有益な情報を心がけて欲しい。



---- 以下、余談 ----

1、70万家について
井田の法と言って、古代中国では8家で1つの共同体をなしていたようだ。そのうち1つの家が戦争に駆り出されると、残りの7家でそのサポートをする。そうすると、他の7家も本業に支障をきたすようになる。10万の兵だと、単純に7倍の70万家という目算だろう。なお、この場合の本業は農業となろう。


2、事に象るとは?
卜筮という古代中国の占いの事を言ってると解釈している。トは亀の甲羅を焼いてできる亀裂をみる占いで、筮は筮竹と言われる竹の束を使う占いの事である。象るの意味を考えれば、これらの占いは事に象っているだろう。


3、度に験すとは?
度は天の度数の意味で、天体の動きとなる。実験でお馴染みの験には、結果が形となって現れるという意味がある。度に験すとは、つまり天体の動きに形となって現れるという事で、星占いと解釈している。


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