6、情況に応じた戦い
孫子曰く。「およそ客たる道は、深ければ則ち専に、浅ければ則ち散ず。国を去り境を越えて師する者は、絶地なり。四達する者は、衢地なり。入ること深き者は、重地なり。入ること浅き者は、軽地なり。固を背にし隘を前にする者は、囲地なり。往く所なき者は、死地なり。
この故に、散地には吾まさにその志を一にせんとす。軽地には吾まさにこれをして属せしめんとす。争地には吾れまさにその後を趨らしめんとす。交地には吾れまさに守りを謹まんとす。衢地には吾まさにその結びを固くせんとす。重地には吾れまさに其の食を継がんとす。圮地には吾れまさに其の塗を進まんとす。囲地には吾れまさにその闕を塞がんとす。死地には、吾まさにこれに示すに活きざるを以ってせんとす。故に兵の情、囲まるれば則ち禦ぎ、已むを得ざれば則ち闘い、過ぐれば則ち従う。」
【解説】
孫子曰く。「およそ敵地に進攻する場合(客)、深く入り込むほど兵は戦う事のみに集中し(専)、まだ浅い段階では故郷を思い出し兵の意識は散漫となる。本国を去って、国境を越えれば、そこは全て絶地だ。そのうち、四方に通じた場所(四達)を衢地と言う。敵地深く入った場所を重地、浅く入った場所を軽地と言う。要害(固)を背後に控え、前方が狭い(隘)場所を囲地と言い、逃げようにも行(往)く所がない場所を死地と言う。
そのため、散地では兵の志を一つにして団結する。軽地では連絡を密にとり兵を繋ぎとめようとする(属)。争地では敵に遅れないよう後方部隊を急がせる(趨)。交地では敵の進撃を警戒し守りに気を配る(謹)。衢地では諸外国との結びつきを固めるために同盟をする。重地では補給路が伸びるため、敵地から奪うなど食料の調達に注意する(継)。圮地では素早く進み、留まらないことを心がける。囲地では自ら逃げ道(闕)を塞いで、兵を死地に追い込む。死地では戦う以外に生(活)きる道が無い事を示す。
兵の心情と言うのは、囲まれれば防ぎ(禦)、止(已)むを得ないなら必死で闘い、いよいよ危ない状況(過)となれば素直に従うものである。」
最初に結論から言うと、兵士は囲まれれば抵抗するし、止むを得ないなら必死で戦い、いよいよ危ないとなれば素直に命令に従うもの。ならば、この性質を積極的に利用したほうが良い。時には兵を自ら死地に追いやるのも、用兵の妙であると孫子は言っている。
窮鼠猫を嚙むならば、味方を窮鼠にしてしまえば良い。死中に活ありと言うように、なんだかんだ生存率が一番良い方法は味方を死地に誘う事になるとは思う。だが、味方を死地に追いやるという発想はとても思いつきづらい。何せ指揮する自分も死地にいるのだから。しかし、だからこそ孫子の妙と言える部分かも知れない。後は以前の繰り返しとなるが、他の部分を3つに分けて解説する。
その1、散地、軽地、重地
兵は敵地深くに進攻するほど自然と結束するものだが、それは兵が逃げられなくなった裏返しとも言える。敵地深くでは、逃げても食料のあてもないし、無事に故郷にたどり着ける保証も無い。となれば、戦って生き残るのが、生存率から現実的な選択肢となる。
という訳だから、逆にまだそれほど敵に侵入していない場合、例えば国境付近であるなら、兵は命欲しさに逃げようか迷う事になる。逃げても故郷はすぐだから餓死もしないだろうし、土地勘もあり勝手が分かっている。職業軍人では無く、昨日まで農民だった者を兵として強制的に連れて行くのだから、こう言った兵の心理状態に気を使わないと、兵が散り散りになる可能性がある。これが自国内での戦いになれば、可能性はより一層高まる。
そこで孫子は何と言っているかと言うと、自国内で戦う時は、兵が離散する可能性が高いのだから、兵の志を一つにまとめる事に努めるそうだ。志を一つに出来たなら、確かに兵は逃げないはずだ。人は志もなしに命は掛けれないが、志のためには命の危険もおかせるもの。国境付近など自国に近い場所で戦う場合も同じで、兵が逃げてしまう可能性があるから、連絡を密にって兵を繋ぎとめるそうだ。
敵地深く進攻して戦う場合は、兵が逃げる心配はなくなり、兵が結束し士気も高くなるが、食料の問題が起きる。自国から補給しようにも、補給路が長く伸びるため警備が大変だし、出来れば敵地から奪いたい。こういった食糧を安定供給するための問題に知恵を絞らねばならない。
その2、絶地、交地、衢地、圮地
国境を越えて進攻する場合を、自国から隔絶された地と言う意味で絶地と言うが、絶地と一言にいっても色々な土地がある。交通の便が良い場所もあれば、3か国以上の利害が交錯する場所があったり、沼沢地などぬかるんだ地域や、戦局を左右しかねない土地もある。そのため、その場所ごとの特質を把握しないと大きな失敗を犯す事になる。交通の便に焦点を当てて見よう。
交通の便が良い場所は、此方も攻めやすいが敵も攻めやすい。そのため、敵の攻撃には常に警戒しなければならない。勝負に待ったは無いのだから、ちょっとした油断から、取り返しのつかない損害がでてしまうかも知れないのだ。交通の便が良い場所は、それだけスピードが出る。その事を忘れてはならない。
ただ、交通の便が良い場所でも、全てが慎重に行軍すれば良いかと言うとそうでも無い。例えば、3カ国以上の利害が交錯する四方に通じた場所では、軍を行軍させると敵対行為と判断され、第3者の予定だった国の虎の尾を踏みかねない。外野のはずの国の機嫌を損ねて、敵国につかれでもしたら大変だ。だから、様々な国の利害が交錯する交通の要所では、外交による解決が先決となる。敵に援軍を送られれば大変だが、此方が援軍を受けられれば大いに有利となる。外交の腕の見せ所だろう。
次は逆に交通の便が悪い場所を考えて見る。例えば、沼沢地など水が邪魔となる場所が典型となる。沼沢地は水でぬかるんでいるため、駐屯地には適さない。兵が病気になるし、水に長くつかりすぎて壊疽したり、戦うにも足場が悪くて戦いにくい。泥のなかで、どうして本来の力を発揮できようか。沼沢地は素早く通り過ぎるのが当然なのだ。交通の便が悪い場合、その動きにくさから敵を待ち伏せする場合は良いが、逆に待ち伏せされるため、その点からも素早く通り過ぎたほうが良くなる。
その3、争地、囲地、死地
争地とは、文字通り争う地の意味となるが、では何故に争うのか?それは先着したほうが有利になるからである。そのため、先着するために足の遅い後方の部隊を急がせるのは当然となる。例えば、見晴らしのいい高台をイメージして欲しい。
囲地は大きな川や、岩山、敵兵に囲まれ身動きがとりづらい地を意味するが、敵があえて逃げ道を用意する事がある。敵に決死の覚悟をされると窮鼠とかし異常な力を発揮するため、そうさせないために逃がすわけだ。兵は逃げ道があると、心が揺れるため決死の覚悟をしづらくなる。そこで孫子は策を講じ、自ら逃げ道を塞ぐと言う。さすれば味方は窮鼠とかし奮迅の活躍をしてくれる。
死地は、万策つき絶対絶命の意である。そのため、隠しても仕方ない。先ずは兵にその事を伝えて、戦う他生き残る術はない事を理解してもらう。窮鼠猫を嚙むかどうかの勝負となろう。普段は秘密主義が用兵の基本だが、死地では秘密にしない。敢えて教える事で、兵の生存本能に火をつけるのだ。
仕事で考えて見よう。今回は孫子が兵士の性質を語っている事にあやかった話を紹介する。仕事ではよくメモを取れと言われるが、上司と部下との会話はメモを取ると良い。これは勿論同じこと2度言われないようにと言う意味だが、もう一つ大切な意味がある。会話をできるだけそのまま再現してみて欲しい。そうすると、聞いた時は気付かなかった事が、メモを通して見えてきたりする。
例えば、部下を怒ってしまったとする。その時はしょうがない部下だと思ったが、改めて会話をメモにして見たら、自分の勘違いに気づく事がある。メモとして文字化する事で、会話を冷静に見る事ができ、会話中には気付かなかった部下の考えが透けて見えてくるのである。人間は先入観で物事を判断しがちなので、こういったテクニックを利用すると良いだろう。あらぬ誤解からミスしないためにもメモは大切なのだ。
孫子曰く。「およそ客たる道は、深ければ則ち専に、浅ければ則ち散ず。国を去り境を越えて師する者は、絶地なり。四達する者は、衢地なり。入ること深き者は、重地なり。入ること浅き者は、軽地なり。固を背にし隘を前にする者は、囲地なり。往く所なき者は、死地なり。
この故に、散地には吾まさにその志を一にせんとす。軽地には吾まさにこれをして属せしめんとす。争地には吾れまさにその後を趨らしめんとす。交地には吾れまさに守りを謹まんとす。衢地には吾まさにその結びを固くせんとす。重地には吾れまさに其の食を継がんとす。圮地には吾れまさに其の塗を進まんとす。囲地には吾れまさにその闕を塞がんとす。死地には、吾まさにこれに示すに活きざるを以ってせんとす。故に兵の情、囲まるれば則ち禦ぎ、已むを得ざれば則ち闘い、過ぐれば則ち従う。」
【解説】
孫子曰く。「およそ敵地に進攻する場合(客)、深く入り込むほど兵は戦う事のみに集中し(専)、まだ浅い段階では故郷を思い出し兵の意識は散漫となる。本国を去って、国境を越えれば、そこは全て絶地だ。そのうち、四方に通じた場所(四達)を衢地と言う。敵地深く入った場所を重地、浅く入った場所を軽地と言う。要害(固)を背後に控え、前方が狭い(隘)場所を囲地と言い、逃げようにも行(往)く所がない場所を死地と言う。
そのため、散地では兵の志を一つにして団結する。軽地では連絡を密にとり兵を繋ぎとめようとする(属)。争地では敵に遅れないよう後方部隊を急がせる(趨)。交地では敵の進撃を警戒し守りに気を配る(謹)。衢地では諸外国との結びつきを固めるために同盟をする。重地では補給路が伸びるため、敵地から奪うなど食料の調達に注意する(継)。圮地では素早く進み、留まらないことを心がける。囲地では自ら逃げ道(闕)を塞いで、兵を死地に追い込む。死地では戦う以外に生(活)きる道が無い事を示す。
兵の心情と言うのは、囲まれれば防ぎ(禦)、止(已)むを得ないなら必死で闘い、いよいよ危ない状況(過)となれば素直に従うものである。」
最初に結論から言うと、兵士は囲まれれば抵抗するし、止むを得ないなら必死で戦い、いよいよ危ないとなれば素直に命令に従うもの。ならば、この性質を積極的に利用したほうが良い。時には兵を自ら死地に追いやるのも、用兵の妙であると孫子は言っている。
窮鼠猫を嚙むならば、味方を窮鼠にしてしまえば良い。死中に活ありと言うように、なんだかんだ生存率が一番良い方法は味方を死地に誘う事になるとは思う。だが、味方を死地に追いやるという発想はとても思いつきづらい。何せ指揮する自分も死地にいるのだから。しかし、だからこそ孫子の妙と言える部分かも知れない。後は以前の繰り返しとなるが、他の部分を3つに分けて解説する。
その1、散地、軽地、重地
兵は敵地深くに進攻するほど自然と結束するものだが、それは兵が逃げられなくなった裏返しとも言える。敵地深くでは、逃げても食料のあてもないし、無事に故郷にたどり着ける保証も無い。となれば、戦って生き残るのが、生存率から現実的な選択肢となる。
という訳だから、逆にまだそれほど敵に侵入していない場合、例えば国境付近であるなら、兵は命欲しさに逃げようか迷う事になる。逃げても故郷はすぐだから餓死もしないだろうし、土地勘もあり勝手が分かっている。職業軍人では無く、昨日まで農民だった者を兵として強制的に連れて行くのだから、こう言った兵の心理状態に気を使わないと、兵が散り散りになる可能性がある。これが自国内での戦いになれば、可能性はより一層高まる。
そこで孫子は何と言っているかと言うと、自国内で戦う時は、兵が離散する可能性が高いのだから、兵の志を一つにまとめる事に努めるそうだ。志を一つに出来たなら、確かに兵は逃げないはずだ。人は志もなしに命は掛けれないが、志のためには命の危険もおかせるもの。国境付近など自国に近い場所で戦う場合も同じで、兵が逃げてしまう可能性があるから、連絡を密にって兵を繋ぎとめるそうだ。
敵地深く進攻して戦う場合は、兵が逃げる心配はなくなり、兵が結束し士気も高くなるが、食料の問題が起きる。自国から補給しようにも、補給路が長く伸びるため警備が大変だし、出来れば敵地から奪いたい。こういった食糧を安定供給するための問題に知恵を絞らねばならない。
その2、絶地、交地、衢地、圮地
国境を越えて進攻する場合を、自国から隔絶された地と言う意味で絶地と言うが、絶地と一言にいっても色々な土地がある。交通の便が良い場所もあれば、3か国以上の利害が交錯する場所があったり、沼沢地などぬかるんだ地域や、戦局を左右しかねない土地もある。そのため、その場所ごとの特質を把握しないと大きな失敗を犯す事になる。交通の便に焦点を当てて見よう。
交通の便が良い場所は、此方も攻めやすいが敵も攻めやすい。そのため、敵の攻撃には常に警戒しなければならない。勝負に待ったは無いのだから、ちょっとした油断から、取り返しのつかない損害がでてしまうかも知れないのだ。交通の便が良い場所は、それだけスピードが出る。その事を忘れてはならない。
ただ、交通の便が良い場所でも、全てが慎重に行軍すれば良いかと言うとそうでも無い。例えば、3カ国以上の利害が交錯する四方に通じた場所では、軍を行軍させると敵対行為と判断され、第3者の予定だった国の虎の尾を踏みかねない。外野のはずの国の機嫌を損ねて、敵国につかれでもしたら大変だ。だから、様々な国の利害が交錯する交通の要所では、外交による解決が先決となる。敵に援軍を送られれば大変だが、此方が援軍を受けられれば大いに有利となる。外交の腕の見せ所だろう。
次は逆に交通の便が悪い場所を考えて見る。例えば、沼沢地など水が邪魔となる場所が典型となる。沼沢地は水でぬかるんでいるため、駐屯地には適さない。兵が病気になるし、水に長くつかりすぎて壊疽したり、戦うにも足場が悪くて戦いにくい。泥のなかで、どうして本来の力を発揮できようか。沼沢地は素早く通り過ぎるのが当然なのだ。交通の便が悪い場合、その動きにくさから敵を待ち伏せする場合は良いが、逆に待ち伏せされるため、その点からも素早く通り過ぎたほうが良くなる。
その3、争地、囲地、死地
争地とは、文字通り争う地の意味となるが、では何故に争うのか?それは先着したほうが有利になるからである。そのため、先着するために足の遅い後方の部隊を急がせるのは当然となる。例えば、見晴らしのいい高台をイメージして欲しい。
囲地は大きな川や、岩山、敵兵に囲まれ身動きがとりづらい地を意味するが、敵があえて逃げ道を用意する事がある。敵に決死の覚悟をされると窮鼠とかし異常な力を発揮するため、そうさせないために逃がすわけだ。兵は逃げ道があると、心が揺れるため決死の覚悟をしづらくなる。そこで孫子は策を講じ、自ら逃げ道を塞ぐと言う。さすれば味方は窮鼠とかし奮迅の活躍をしてくれる。
死地は、万策つき絶対絶命の意である。そのため、隠しても仕方ない。先ずは兵にその事を伝えて、戦う他生き残る術はない事を理解してもらう。窮鼠猫を嚙むかどうかの勝負となろう。普段は秘密主義が用兵の基本だが、死地では秘密にしない。敢えて教える事で、兵の生存本能に火をつけるのだ。
仕事で考えて見よう。今回は孫子が兵士の性質を語っている事にあやかった話を紹介する。仕事ではよくメモを取れと言われるが、上司と部下との会話はメモを取ると良い。これは勿論同じこと2度言われないようにと言う意味だが、もう一つ大切な意味がある。会話をできるだけそのまま再現してみて欲しい。そうすると、聞いた時は気付かなかった事が、メモを通して見えてきたりする。
例えば、部下を怒ってしまったとする。その時はしょうがない部下だと思ったが、改めて会話をメモにして見たら、自分の勘違いに気づく事がある。メモとして文字化する事で、会話を冷静に見る事ができ、会話中には気付かなかった部下の考えが透けて見えてくるのである。人間は先入観で物事を判断しがちなので、こういったテクニックを利用すると良いだろう。あらぬ誤解からミスしないためにもメモは大切なのだ。
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