2019年12月24日火曜日

観音行 普門偈 その13

【原文】

具足神通力 広修智方便 十方諸国土 無刹不現身



【和訳】

神通力を具足し、広く智方便を修め、十方諸々の国土において、その身を現わさない刹は無い。



【解説】

今回は、神通力と叡智を兼ね備えた観音様は、私達を苦しみから救うために、方便を携えてあらゆる所に現われると言う話となる。叡智については前回説明したので、ここでは神通力の説明をする。神通力は、人々を苦しみから救うために必要な能力と考えると良い。人々を苦しみから救うには、まず何で苦しんでいるのかを知る必要がある。だから、人々の様子を窺う目が必要となるし、実際に苦しんでいる声を聴くための耳が必要になる。これが天眼通、天耳通と言われる神通力で、何処にいても見えるし聞こえると言う性能を誇る。だが、正確さを求めるなら、目と耳だけでは足りない。悩んでいる者がどういう性格の人間かによって、求められる方便は変わる。そこで、悩む者の性格を知る必要が出てくる。では、どうやって性格を知るかになるが、過去どういう風に生きて来たのかを知り、これからどういう風に生きていきそうなのかを見通せれば良い。さらに言えば、心の中すら見通せるならば言う事がない。これが宿命通、他心通と言われる神通力となる。ここまで全ての神通力を使いこなせれば、適切な方便によって悩む者に必要なアドバイスを過不足なく出来る。だが、まだ問題がある。それは悩む者が話を聞いてくれるか分からないという事だ。幾ら当を得たアドバイスであっても、話を聞いてくれないのでは救いようが無い。そこで、まずは信頼を勝ち取るために、模範を示す必要がでてくる。模範によって尊敬されるなら、人は尊敬している人の言う事ならば、その信頼からやってみようとなる。では、どういった模範を示すかになるが、人々を苦しみから救うのが目的であるから、本人がまず苦しんでいない事を示すのが良い。苦しみは何かに囚われた心から生まれるため、何にも囚われていない自由な心が必要となる。これが神境通と言われる神通力だ。そして、普通なら悩んで然るべき場面でも、自分はそういった悩みを消すことが出来ると実際に示す事も大切だ。これが漏神通と言われる神通力で、これが備わると悟りに達する。ちなみに漏は煩悩と言う意味だ。

さて、本文に戻ろう。要はこういった優れた神通力と叡智を具え、テクニックとしての方便を身に着けた観音様だからこそ、人々の苦しみを救えるとお経は言うのである。十方諸々の国土はありとあらゆる場所と言う意味で、世界の何処にいても望めば其処に観音様は現れると言うのがお経の趣旨となる。何時も観音様は見守っている事を忘れるなという訳だ。また、十方諸々の国土は地理的な意味だけでなく、様々な悩みの例えともなる。つまり、どんな悩みであれ観音様は見捨てない。なお、望めば観音様は現れるとは、観音様は何時も目の前にいるという事だ。それは人に限らない。天地自然全てが観音様となる。何故なら、世界は自分の心の投影して作られるから。観音様は心に住んでおり、その心が投影された世界は全て観音様の化身だ。だから、意識しようとしまいと、観音様はすでに目の前なのである。そういう意味では、観音様が現れると言うよりは、すでにいると言ったほうが良い。望むとは、ラジオの周波数を合わせるようなものだ。ラジオの電波は、自分の意識とは関係なく常に流されている。ただ、意識してキャッチした時にだけ、つまり、ラジオの周波数を合わせた時にだけ音声が流れる。観音様も同じである。常に見守っているのだが、それを意識しない人には分からない。




【語句の説明】

1、方便は仏が衆生を悟りに導くための手段。

2、十方は、あらゆる所。上下東西南北と北東、北西、南東、南西。

3、刹は、所。

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