5、衆を用いるの法
孫子曰く。「軍政に曰く、言えども相聞えず、故に金鼓をつくる。視せども相見えず、故に旌旗をつくる、と。それ金鼓、旌旗は人の耳目を一にする所以なり。人すでに専一なれば、勇者も独り進むことを得ず、怯者も独り退くことを得ず。これ衆を用うるの法なり。故に夜戦に火鼓多く昼戦に旌旗多きは、人の耳目を変うる所以なり。」
【解説】
孫子曰く。「昔の兵法書(軍政)には、戦場では言葉が打ち消され聞こえないために、ドラ(金鼓)を作る。また、戦場ではお互いを視認する事も難しいため、軍旗(旌旗)を作るとある。その理由を考えるに、ドラ(金鼓)や軍旗(旌旗)によって軍全体の耳目が一つになるからであろう。軍全体の耳目が一つになるならば、勇者も独りで突撃する事もないし、怯える者も独り逃げる事はできない。これが大軍を動かす方法である。夜戦では火とドラ(金鼓)を多用し、昼戦では軍旗(旌旗)を多用するのは、軍全体の耳目をまとめる事を意識すればこそなのだ。」
中国の戦争は10万対10万の戦いなため、数万の軍勢を想定して欲しい。同じ軍の中でさえ、味方との距離は数百m、数kmと離れる事になる。この状況の中、遠く離れた味方に、どうしたら命令を伝達できるだろうか?こう問われて、大声を出すとか、身振り手振りで伝えると答える者はいまい。だから、昔の兵法書では、ドラをつかって大きな音をだしたり、大きな軍旗を作って目印にすると書いてあると孫子は説明している。
そして、ドラや軍旗により、指揮官の命令が離れた味方にまで伝わるなら、味方の勝手な行動を阻止する役目も担うようになると言う。命令が伝わらなければ、兵卒は何をして良いか分からない。戦場は命の失うかも知れないと言う極限の緊張感の中にあるのだ。その中、何をして良いかも分からず、ただ立っている事ができようか?憶病な者は逃げ出してしまうに違いない。
逆に功を焦る者もでてくる。戦場には皆報酬を目当てで来ている。位の高い者を倒した者ほど報酬も良いのだから、力に自信のある者は抜け駆けをしたくなる。しかし、こういった個人の勝手な行動は、軍の瓦解を意味する。そうなっては、勝てる戦も勝てぬのだから、ドラや軍旗によって命令の伝達をはっきりさせる事は、軍を瓦解させない意味でも大切なのである。こう考えて見れば、夜戦でかがり火や松明を多用しドラを鳴らす、昼戦で軍旗を掲げる理由も良く分かるのでは無いだろうか?孫子はこれを「耳目を一にする所以」と言っている。
銃火器が発達した今でこそ、10万の人間を集めるような戦いより、少数精鋭のプロフェッショナル集団が尊ばれるが、少し前までは人数こそ強さであった。今は集団をまとめると的が大きくなるため好ましくない。適当に撃っても当たってしまうようになるだけだ。今は人工衛星を目にし、人工衛星から得た情報をチームみんなが共有しながら戦う事ができるが、少し前までは一兵卒に全体の状況を把握する事は出来なかった。今は本国にいながら最前線のチームに直接命令できるが、少し前まではそれは夢のような話であった。
時代はこれからリモート・キリングと呼ばれる、AIを利用した戦争にまで発達を見せようとしている。オフィスにいながらスマホで暗殺用ロボットを動かし、相手を殺す時代になる。こういう劇的な時代変化により、孫子の時代のドラや軍旗の活用方法はそのままでは時代に合わなくなっている。だが、孫子がもたせたドラや軍旗の意義は大変参考になるはず。
命令を速やかに伝える事は、部下を何をしていいか分からない不安から解放する意味を持つ。目的がはっきりしないと、人はうまく動けないもの。だからこそ、上は速やかに状況を分析し、部下に何をして欲しいか伝えねばならない。即断即決とまでは言わないが、日々考えを巡らせ、無意識にも考えるように自分を修練する。そして、できる限り即断即決で適切な指示をだせるよう上の者は精進しなければならないだろう。下の者に不安を与えない。そういった視点で孫子の教えを捉えてはどうだろうか?
仕事で考えて見る。孫子の説くドラや軍旗には2つの意味がある。一つは、命令一下、組織が速やかに動けるように組織をつくる事の大切さ。もう一つは、命令を伝える事が、部下の不安を和らげることを知る事の重要性だ。この2つの視点から、自分のチームを顧みてはどうだろうか?今はネットを利用すれば命令の方法には困らないだろうから、即断即決できるような人間になる事がより大切かと思う。即断即決の秘訣は、常に考えるという姿勢にある。常に考えているという経験の蓄積が、即断即決に確からしさを生むのだ。日々、直観を磨きたいものである。
孫子曰く。「軍政に曰く、言えども相聞えず、故に金鼓をつくる。視せども相見えず、故に旌旗をつくる、と。それ金鼓、旌旗は人の耳目を一にする所以なり。人すでに専一なれば、勇者も独り進むことを得ず、怯者も独り退くことを得ず。これ衆を用うるの法なり。故に夜戦に火鼓多く昼戦に旌旗多きは、人の耳目を変うる所以なり。」
【解説】
孫子曰く。「昔の兵法書(軍政)には、戦場では言葉が打ち消され聞こえないために、ドラ(金鼓)を作る。また、戦場ではお互いを視認する事も難しいため、軍旗(旌旗)を作るとある。その理由を考えるに、ドラ(金鼓)や軍旗(旌旗)によって軍全体の耳目が一つになるからであろう。軍全体の耳目が一つになるならば、勇者も独りで突撃する事もないし、怯える者も独り逃げる事はできない。これが大軍を動かす方法である。夜戦では火とドラ(金鼓)を多用し、昼戦では軍旗(旌旗)を多用するのは、軍全体の耳目をまとめる事を意識すればこそなのだ。」
中国の戦争は10万対10万の戦いなため、数万の軍勢を想定して欲しい。同じ軍の中でさえ、味方との距離は数百m、数kmと離れる事になる。この状況の中、遠く離れた味方に、どうしたら命令を伝達できるだろうか?こう問われて、大声を出すとか、身振り手振りで伝えると答える者はいまい。だから、昔の兵法書では、ドラをつかって大きな音をだしたり、大きな軍旗を作って目印にすると書いてあると孫子は説明している。
そして、ドラや軍旗により、指揮官の命令が離れた味方にまで伝わるなら、味方の勝手な行動を阻止する役目も担うようになると言う。命令が伝わらなければ、兵卒は何をして良いか分からない。戦場は命の失うかも知れないと言う極限の緊張感の中にあるのだ。その中、何をして良いかも分からず、ただ立っている事ができようか?憶病な者は逃げ出してしまうに違いない。
逆に功を焦る者もでてくる。戦場には皆報酬を目当てで来ている。位の高い者を倒した者ほど報酬も良いのだから、力に自信のある者は抜け駆けをしたくなる。しかし、こういった個人の勝手な行動は、軍の瓦解を意味する。そうなっては、勝てる戦も勝てぬのだから、ドラや軍旗によって命令の伝達をはっきりさせる事は、軍を瓦解させない意味でも大切なのである。こう考えて見れば、夜戦でかがり火や松明を多用しドラを鳴らす、昼戦で軍旗を掲げる理由も良く分かるのでは無いだろうか?孫子はこれを「耳目を一にする所以」と言っている。
銃火器が発達した今でこそ、10万の人間を集めるような戦いより、少数精鋭のプロフェッショナル集団が尊ばれるが、少し前までは人数こそ強さであった。今は集団をまとめると的が大きくなるため好ましくない。適当に撃っても当たってしまうようになるだけだ。今は人工衛星を目にし、人工衛星から得た情報をチームみんなが共有しながら戦う事ができるが、少し前までは一兵卒に全体の状況を把握する事は出来なかった。今は本国にいながら最前線のチームに直接命令できるが、少し前まではそれは夢のような話であった。
時代はこれからリモート・キリングと呼ばれる、AIを利用した戦争にまで発達を見せようとしている。オフィスにいながらスマホで暗殺用ロボットを動かし、相手を殺す時代になる。こういう劇的な時代変化により、孫子の時代のドラや軍旗の活用方法はそのままでは時代に合わなくなっている。だが、孫子がもたせたドラや軍旗の意義は大変参考になるはず。
命令を速やかに伝える事は、部下を何をしていいか分からない不安から解放する意味を持つ。目的がはっきりしないと、人はうまく動けないもの。だからこそ、上は速やかに状況を分析し、部下に何をして欲しいか伝えねばならない。即断即決とまでは言わないが、日々考えを巡らせ、無意識にも考えるように自分を修練する。そして、できる限り即断即決で適切な指示をだせるよう上の者は精進しなければならないだろう。下の者に不安を与えない。そういった視点で孫子の教えを捉えてはどうだろうか?
仕事で考えて見る。孫子の説くドラや軍旗には2つの意味がある。一つは、命令一下、組織が速やかに動けるように組織をつくる事の大切さ。もう一つは、命令を伝える事が、部下の不安を和らげることを知る事の重要性だ。この2つの視点から、自分のチームを顧みてはどうだろうか?今はネットを利用すれば命令の方法には困らないだろうから、即断即決できるような人間になる事がより大切かと思う。即断即決の秘訣は、常に考えるという姿勢にある。常に考えているという経験の蓄積が、即断即決に確からしさを生むのだ。日々、直観を磨きたいものである。
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