2018年12月4日火曜日

八佾 第三 5

【その5】


(書き下し文が2つある)

(A)子曰く、夷いてききみ有るは、緒夏しょかきにかず。

(B)子曰く、夷狄いてきすらきみ有り。緒夏しょかきがごとくならず。



【口語訳】

(A)孔子先生がおっしゃった。野蛮人も君主を頂いておるが、君主なき中国にも及ばないな。

(B)孔子先生がおっしゃった。野蛮人ですら君主を頂いておる。君主なきが如き中国のようなものでは無い。



【解説】

(A)中華思想を典型的に示している。中華思想とは、世界で中国のみが唯一の文明国であり、中国文化の及ばない地域は野蛮人が住むとする考え方だ。この考え方によれば、野蛮人どもが君主を頂こうが、君主なき中国にも及ぶはずがないのは当然となる。野蛮人にそもそも文明など存在しないのだから。

中華思想は、特に孔子のような官僚としてやっていきたい者にとって必須の考え方となり、野蛮人を褒めるような真似をすれば仲間内から揚げ足を取られる。これを現代の中国では崇洋眉外と言う。



(B)君主のもとに臣下が集う姿を尊ぶ孔子が、中国ではそうなっていない事を嘆いた一節と考えられる。具体的には、魯の君主のもとに三桓氏が集うべきなのに、三桓氏が君主をないがしろに好き勝手やっている様を嘆いたのだろう。周公の礼の復興が悲願だった孔子らしい。

ただ、中国では給料という概念がなく、各々賄賂をとって生活していたなら、主従の関係も希薄にならざる得なかったと思う。全てを金で割りきる社会になると考えたほうがスッキリする。



1、総評

(A)とも、(B)とも解釈できるところに孔子の練達ぶりがうかがえる。孔子は官僚を目指す以上、中華思想を守らねばならないが、かと言って周公の礼が失われ乱世のようになってしまった中国を嘆いてもいる。この両方を上手くまとめているわけだ。

原文:子曰、夷狄之有君、不如諸夏之亡也。



【参考】

1、夷狄は中国文化の及ばない地域の蔑称であり、具体的には北狄、東夷、西戎、南蛮の総称。

2、諸夏は、中国という意味。



【まとめ】

能ある鷹は爪を隠す。

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